来たので一人で腹をかゝへた事であつた。此の話しを北朗にして聞かせたら、北朗その時の云ひ草に[#「云ひ草に」に傍点]曰く、人間が予定[#「予定」に傍点]と云ふもので行動すると身体をいためるネ[#「いためるネ」に傍点]……放哉その時正にあいた口がふさがらず只なるほど、北朗と云ふ男は芸術家[#「芸術家」に傍点]だなあ……と大に感心した事であつた。人間予定で動くとからだを毀すからネとは正に人を喰つた話しなれども、彼れ北朗の芸術味[#「芸術味」に傍点]は正に茲にこゝにありとつく/″\感心してしまつた。放哉と云ふ男……、一寸見るとダラシ[#「ダラシ」に傍点]の無い男のやうだが、此の予定の行動[#「予定の行動」に傍点]と云ふ事は今迄ずい分馴らされて来て居る、所謂腰弁生活の時代に、支店や出張所や代理店やの間を旅行するとき、旅館にとまると、マヅ[#「マヅ」に傍点]真つ先きに電報用紙を出して来て、昨日の店に今此の地に着いたと云ふ礼状の電報、それから明日行く店に、明日何時にその地に行くと云ふ電報之丈を打電してしまつてから扨……酒となり飯になるといふわけ……此の癖が未だに残つて居るものと見えて北朗が電報打つて来ないので少々中ツ腹[#「中ツ腹」に傍点]になつて居たものなり、そこで、扨、夜となり、井師にハガキを送り……処が此の四五日前から私の肩が非常にこる[#「こる」に傍点]普通のこり[#「こり」に傍点]方ではないので、実にイヤ[#「イヤ」に傍点]なこり[#「こり」に傍点]方だ、これは私の病気のセイ[#「セイ」に傍点]から来るのでもあるが、益ひどくなつて来たので、こんな時には按摩さんにもんでもらつて寝た方がよいと思ひ付いて、村の按摩さんを呼んで来て、これから愈もんでもらふとなつた途端に、ガラ/\と障子をあけて、ヒヨコ/\と這入つて来た者あり……北朗正に夜中に出現せり……全くこれでは和寇以上であり、正に夜中の押し込み[#「押し込み」に傍点]である呵々……扨愈北朗出現……処がこれからが又頗るダラシ[#「ダラシ」に傍点]の無いもので、(按摩さんは勿論直ちにいんでもらふ)「オイ[#「オイ」に傍点]、何故もつと早く来なかつたのだい、待つたぜ、待つたぜ」、「ウン[#「ウン」に傍点]船の出る時間がよくわからなかつたもんだから」……これでお終ひ、今迄長たらしくダラ/\書いて来た事は、たつた此の一ト口宛の会話で
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