……殊更その朝と夕とにて於て……そこに流れて居るあらゆる雲の形と色とを、それは種々様々に変形し、変色して見せてくれると云ふことであります。勿論、其の変形、変色の底に流れて居る光り[#「光り」に傍点]といふものを見逃がす事も出来ません。之は誰しも承知して居る事でありますが、海の近くで無いとこいつ[#「こいつ」に傍点]が絶対に見られない事であります。私は、海の慈愛と同時に此の雲と云ふ、曖昧模糊たるものに憧憬れて、三年の間、瓢々乎として歩いて居たといふわけであります。それが、この度、仏恩によりまして、此庵に落ち着かせていたゞく事になりまして以来、朝に、夕べに、海あり、雲あり、而も一本の柱あり、と申す訳で、況んや時正に仲秋、海につけ、雲につけ、月あり、虫あり、是れ年中の人間好時節といふ次第なのであります。



底本:「日本の名随筆 別巻21 巡礼」作品社
   1992(平成4)年11月第1刷発行
底本の親本:「尾崎放哉全集」彌生書房
   1972(昭和47)年6月
入力:浦山敦子
校正:noriko saito
2007年8月9日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネッ
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