し前にのばせば、そこは広々と低みのなだれ[#「なだれ」に傍点]になつて一面の芋畑、そして遠く、土庄町の一部と、西の空の開いて居るのが見えるのであります。東は例のこの庵唯一の小さい低い窓でありまして、其の窓を通して渠の如き海が見え、海の向うには、島のなかの低い山が連つて居ります。西はすぐ山ですから、窓によつて月を賞するの便があるのみで、別に大した風情は有りませんのです。お天気のよい日には毎朝、此の東の空に並んで居る連山のなかから、大陽がグン/\[#「グン/\」に傍点]昇つて来ます。太陽の昇るのは早いものですね。山の上に出たなと思つたら、もう、グツグツグツと昇つてしまひます。その早いこと、それを一人坐つてだまつて静に見て居る気持ツたら[#「ツたら」に傍点]全くありません。私は性来、殊の外海が好きでありまして、海を見て居るか、波音を聞いて居ると、大抵な脳の中のイザコザ[#「イザコザ」に傍点]は消えて無くなつてしまふのです。「賢者は山を好み、智者は水を愛す」といふ言葉があります。此の言葉はなか/\うま味のある言葉であると思ひます。但し、私だけの心持かも知れませんが――。一体私は、ごく小さな時か
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