海
尾崎放哉
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)糂汰瓶《じんだびん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)がらん[#「がらん」に傍点]とした
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)しと/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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庵に帰れば松籟颯々、雑草離々、至つてがらん[#「がらん」に傍点]としたものであります。芭蕉が弟子の句空に送りました句に、「秋の色糠味噌壺も無かりけり」とあります。これは徒然草の中に、世捨人は浮世の妄愚を払ひ捨てゝ、糂汰瓶《じんだびん》ひとつも持つまじく、と云ふ処から出て居るのださうでありますが、全くこの庵にも、糠味噌壺一つ無いのであります。縁を人に絶つて身を方外に遊ぶ、などと気取つて居るわけでは毛頭ありませんし、また、その柄でも勿論ないのでありますから、時々、ふとした調子で、自分はたつた一人なのかな[#「一人なのかな」に傍点]、と云ふ感じに染々と襲はれることであります。八畳の座敷の南よりの、か細い一本の柱に、たつた一つの脊をよせかけて、其前に、お寺から拝借して来
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