2
白熱の俎上にをどる薔薇、薔薇、薔薇。
3
しろくなよなよとひらく、あけがた色の勤行《ごんぎやう》の薔薇の花。
4
刺《とげ》をかさね、刺《とげ》をかさね、いよいよに にほひをそだてる薔薇の花。
5
翅《つばさ》のおとを聴かんとして 水鏡《みづかがみ》する 喪心《さうしん》の あゆみゆく薔薇
6
ひひらぎの葉《は》のねむるやうに ゆめをおひかける 霧色《きりいろ》の薔薇の花。
7
いらくさの影《かげ》にかこまれ 茫茫とした色をぬけでる 真珠色の薔薇の花。
8
黙祷の禁忌のなかにさきいでる 形《かたち》なき蒼白の 法体《ほつたい》の薔薇の花。
9
欝金色の月に釣られる 盲目の ただよへる薔薇。
10[#「10」は縦中横]
ひそまりしづむ木立《こだち》に 鐘をこもらせるうすゆきいろの薔薇の花。
11[#「11」は縦中横]
すぎさりし月光にみなぎる 雨の薔薇の花。
12[#「12」は縦中横]
吐息をひらかせる ゆふぐれの 喘《あへ》ぎの薔薇の花。
13[#「13」は縦中横]
ひねもすを嗟嘆する 南の色の薔薇の花。
14[#「14」は縦中横]
火のなかにたはむれる 真昼の靴をはいた黒耀石の薔薇の花。
15[#「15」は縦中横]
くもり日《び》の顔に映る 大空の窗《まど》の薔薇の花。
16[#「16」は縦中横]
掌《て》はみづにかくれ 微風《そよかぜ》の夢をゆめみる 未生《みしやう》の薔薇の花。
17[#「17」は縦中横]
鵞毛《がもう》のやうにゆききする 風にさそはれて朝化粧《あさげしやう》する薔薇の花。
18[#「18」は縦中横]
みどりのなかに 生《お》ひいでた 手も足も風にあふれる薔薇の花。
19[#「19」は縦中横]
眼にみえぬ ゆふぐれのなみだをためて ひとつひとつにつづりあはせた 紅玉色《こうぎよくいろ》の薔薇の花。
20[#「20」は縦中横]
現《うつつ》なるにほひのなかに 現《うつつ》ならぬ思ひをやどす 一輪のしづまりかへる薔薇の花。
21[#「21」は縦中横]
眼と眼のなかに 空色の時
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