こる憂欝、
はりねずみのやうに舞ふ苦悶、
まつかに焼けただれたたましひ、
わたしはむかうの岡のうへから、
やみつかれた年寄の馬をつれてこようとしてゐる。
やさしい老馬よ、
おまへの眼のなかにはあをい水草《すゐさう》のかげがある。
そこに、まつしろなすきとほる手をさしのべて、
水草のかげをぬすまうとするものがゐる。
鼻を吹く化粧の魔女
水仙色のそら、
あたらしい智謀と霊魂とをそだてる暮方《くれがた》の空のなかに、
こころよく水色にもえる眼鏡、
その眼鏡にうつる向うのはうに
豊麗な肉体を持つ化粧の女、
しなやかに ぴよぴよとなくやうな女のからだ、
ほそい にほはしい線のゆらめくたびに、
ぴよぴよとなまめくこゑの鳴くやうなからだ、
ねばねばしたまぼろしと
つめたくひかる放埓とが、
くつきりとからみついて、
あをくしなしなと透明にみえる女のからだ、
ものごしの媚びるにつれて、
ものかげの夜の鳥のやうに、
ぴよぴよと鳴くやうな女のからだ、
やさしいささやきを売る女の眼、
雨のやうに情念をけむらせる女の指、
闇のなかに高い香料をなげちらす女の足の爪、
濃化粧の魔女のはく息は、
ゆるやかに輪をつくつて、
わたしのつかれた眼をなぐさめる。
あをざめた僧形の薔薇の花
もえあがるやうにあでやかなほこりをつつみ、
うつうつとしてあゆみ、
うつうつとしてわらつてゐた
僧形《そうぎやう》のばらの花、
女の肌にながれる乳色のかげのやうに
うづくまり たたずみ うろうろとして、
とかげの尾のなるひびきにもにて、
おそろしいなまめきをひらめかしてうかがひよる。
すべてしろいもののなかに
かくれふしてゆく僧形《そうぎやう》のばらの花、
ただれる憂欝、
くされ とけてながれる悩乱の花束、
美貌の情欲、
くろぐろとけむる叡智《えいち》の犬、
わたしの両手はくさりにつながれ、
ほそいうめきをたててゐる。
わたしのまへをとほるのは、
うつくしくあをざめた僧形《そうぎやう》のばらの花、
ひかりもなく つやもなく もくもくとして、
とほりすぎるあをざめたばらの花。
わたしのふたつの手は
くさりとともにさらさらと鳴つてゐる。
僧衣の犬
くちぶえのとほざかる森のなかから、
はなすぢのとほつた
ひたひにしわのある犬が
のつそりとあるいてきた。
犬は人間の年寄のやうに眼をしめらせて、
なが
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