栗鼠《りす》とのやうにいがみあふ。
をりをりは麗しくきらめく白い歯の争闘に倦怠の世は旋風の壁模様に眺め入る。
鳥の毛の鞭
尼僧のおとづれてくるやうに思はれて、なんとも言ひやうのない寂しさ いらだたしさに張りもなくだらける。
嫉妬よ、嫉妬よ、
やはらかい濡葉《ぬれば》のしたをこごみがちに迷つて、
鳥の毛の古甕色《こがめいろ》の悲しい鞭にうたれる。
お前はやさしい悩みを生む花嫁、
わたしはお前のつつましやかな姿にほれる。
花嫁よ、けむりのやうにふくらむ花嫁よ、
わたしはお前の手にもたれてゆかう。
撒水車の小僧たち
お前は撒水車をひく小僧たち、
川ぞひのひろい市街を悠長にかけめぐる。
紅や緑や光のある色はみんなおほひかくされ、
Silence《シイランス》 と廃滅《はいめつ》の水色の色の行者のみがうろつく。
これがわたしの隠しやうもない生活の姿だ。
ああわたしの果てもない寂寥を
街のかなたこなたに撒きちらせ、撒きちらせ。
撒水車の小僧たち、
あはい予言の日和が生れるより先に、
つきせないわたしの寂寥をまきちらせまきちらせ。
海のやうにわきでるわたしの寂寥をまきちらせ。
羊皮をきた召使
お前は羊皮《やうひ》をきた召使だ。
くさつた思想をもちはこぶおとなしい召使だ。
お前は紅い羊皮をきたつつましい召使だ。
あの ふるい手なれた鎔炉のそばに
お前はいつも生生《いきいき》した眼で待つてゐる。
ほんたうにお前は気の毒なほど新らしい無智を食べてゐる。
やはらかい羊の皮のきものをきて
すずしい眼で御用をきいてゐる。
すこしはなまけてもいいよ、
すこしはあそんでもいいよ、
夜になつたらお前自身の考をゆるしてやる。
ぬけ羽のことさへわすれた老鳥《おいどり》が
お前のあたまのうへにびつこをひいてゐる。
のびてゆく不具
わたしはなんにもしらない。
ただぼんやりとすわつてゐる。
さうして、わたしのあたまが香のけむりのくゆるやうにわらわら[#「わらわら」に傍点]とみだれてゐる。
あたまはじぶんから
あはう[#「あはう」に傍点]のやうにすべての物音に負かされてゐる。
かびのはえたやうなしめつぽい木霊《こだま》が
はりあひもなくはねかへつてゐる。
のぞみのない不具《かたは》めが
もうおれひとりといはぬばかりに
あたらしい生活のあとを食ひあらしてゆく。
わたしはか
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