かにあけぼのへはしる。
わたしのあるいてゆく路のくさは
ひとつひとつをとめとなり、
手をのべてはわたしの足をだき、
唇をだしてはわたしの膝をなめる。
すずしくさびしい野辺のくさは、
うつくしいをとめとなつて豊麗なからだをわたしのまへにさしのべる。
わたしの青春はけものとなつてもえる。
金属の耳
わたしの耳は
金糸《きんし》のぬひはくにいろづいて、
鳩のにこ毛のやうな痛みをおぼえる。
わたしの耳は
うすぐろい妖鬼の足にふみにじられて、
石綿《いしわた》のやうにかけおちる。
わたしの耳は
祭壇のなかへおひいれられて、
そこに印呪をむすぶ金物《かなもの》の像となつた。
わたしの耳は
水仙の風のなかにたつて、
物の招きにさからつてゐる。
妬心の花嫁
このこころ、
つばさのはえた、角《つの》の生えたわたしの心は、
かぎりなくも温熱《をんねつ》の胸牆《きようしやう》をもとめて、
ひたはしりにまよなかの闇をかける。
をんなたちの放埓《はうらつ》はこの右の手のかがみにうつり、
また疾走する吐息のかをりはこの左の手のつるぎをふるはせる。
妖気の美僧はもすそをひいてことばをなげき、
うらうらとして銀鈴の魔をそよがせる。
ことなれる二つの性は大地のみごもりとなつて、
谷間に老樹《らうじゆ》をうみ、
野や丘にはひあるく二尾《ふたを》の蛇をうむ。
蛙にのつた死の老爺
灰色の蛙の背中にのつた死が、
まづしいひげをそよがせながら、
そしてわらひながら、
手をさしまねいてやつてくる。
その手は夕暮をとぶ蝙蝠のやうだ。
年をとつた死は
蛙のあゆみののろいのを気にもしないで、
ふはふはとのつかつてゐる。
その蛙は横からみると金色《きんいろ》にかがやいてゐる、
まへからみると二つの眼がとびでて黒くひかつてゐる。
死の顔はしろく、そして水色にすきとほつてゐる。
死の老爺《おやぢ》はこんな風にして、ぐるりぐるりと世界のなかをめぐつてゐる。
日輪草
そらへのぼつてゆけ、
心のひまはり草《さう》よ、
きんきんと鈴をふりならす階段をのぼつて、
おほぞらの、あをいあをいなかへはひつてゆけ、
わたしの命《いのち》は、そこに芽をふくだらう。
いまのわたしは、くるしいさびしい悪魔の羂《わな》につつまれてゐる。
ひまはり草よ、
正直なひまはり草よ、
鈴のねをたよりにのぼつてゆけ、のぼ
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