を止めねば、時々怒りて自らテヱエル[#「テヱエル」に二重傍線]の黄なる流に躍り入り、身を水底に滾《まろが》してこれを攘《はら》ひたり。羅馬の市にて、闃然《げきぜん》たる午時《ひるどき》の街を行く人は、綫《すぢ》の如き陰影を求めて夏日の烈しきをかこつと雖《いへども》、これをこの火の海にたゞよひ、硫黄氣ある毒※[#「諂のつくり+炎」、第3水準1−87−64]を呼吸し、幾萬とも知られぬ惡蟲に膚を噛まるゝものに比ぶれば、猶是れ樂土の客ならんかし。
九月になりて氣候やゝ温和になりぬ。フエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]はこの燒原を畫かんとて來ぬ。我が住める怪しき家、劫盜《ひはぎ》の屍《かばね》をさらしたる處、おそろしき水牛、皆其筆に上りぬ。我には紙筆を與へて畫の稽古せよと勸め、又折もあらば迎へに來て、フラア・マルチノ[#「フラア・マルチノ」に傍線]、マリウチア[#「マリウチア」に傍線]其外の人々に逢はせばやと契りおきぬ。惜むらくはこの人久しく約を履《ふ》まざりき。
水牛
十一月になりぬ。こゝに來しより最《もつとも》快き時節なり。爽《さはやか》なる風は山々よりおろし來ぬ。夕暮になれ
前へ
次へ
全674ページ中86ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
アンデルセン ハンス・クリスチャン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング