m#「フジナ」に二重傍線]に到りぬ。われは又泥深き海、衣色の石垣、「マルクス」寺の塔を望むことを得たり。怪むべし、われは足一たびヱネチア[#「ヱネチア」に二重傍線]の地を踏むと齊《ひと》しく、吾心の劇變せるを覺えき。今までヱネチア[#「ヱネチア」に二重傍線]へ、ヱネチア[#「ヱネチア」に二重傍線]へと呼びし意欲は俄に迹《あと》を※[#「楫のつくり+戈」、第3水準1−84−66]《をさ》めて、一種の言ふべからざる羞慚《しうざん》の情生じ、人の汝は何故に復た來れると問はゞ、辭の答ふべきなからんと氣遣ふやうになりぬ。
われは直ちに舊寓に入りて、衣服を改め、身の疲れたるをも顧みで、市長《ボデスタ》の家に往きぬ。舟の苔を被れる屋壁と高き窓とに近づくとき、怪しき映象は我胸に浮びぬ。そはわれ若しマリア[#「マリア」に傍線]が結婚の席に往きあはゞいかにといふことなりき。われは此|念《おもひ》の頭を擡《もた》げ來るを見て、又急にこれを抑へ、否、われは求婚の爲めに往くならねば、そも亦|妨《さまたげ》なしと云ひぬ。されど我心は遂に全く平《たひらか》なること能はざりき。
門《かど》を叩けば僕《しもべ》出で
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