鼡に玉蜀黍《たうもろこし》の莢《さや》敷きたるを指し示し、あれこそ汝が臥床《ふしど》なれ、さきには善き檸檬水呑ませたれば、まだ喉も乾かざるべく、腹も減らざるべし、と我頬を撫でゝ微笑《ほゝゑ》みたる、その面恐しきこと譬《たと》へんに物なし。マリウチア[#「マリウチア」に傍線]が持ちたる嚢には、猶銀幾ばくかある。馭者《エツツリノ》に與ふる錢をも、あの中よりや出しゝ。貴人の僕は、金もて來しとき、何といひしか。かく問ひ掛けられて、我はたゞ知らずとのみ答へ、はては泣聲になりて、いつまでもこゝに居ることにや、あすは家に歸らるゝことにや、と問ひぬ。勿論なり。いかでか歸られぬ事あらん。おとなしくそこに寐よ。「アヱ、マリア」を唱ふることを忘るな。人の眠る時は鬼の醒めたる時なり。十字を截《き》りて寐よ。この鐵壁をば吼《たけ》る獅子《しゝ》も越えずといふ。神を祈らば、あのマリウチア[#「マリウチア」に傍線]の腐女《くさりをんな》が、そちにも我にも難儀を掛けたるを訴へて、毒に中《あた》り、惡瘡を發するやうに呪へかし。おとなしく寐よ。小窓をば開けておくべし。涼風《すゞかぜ》は夕餉《ゆふげ》の半といふ諺あり。蝙
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