ヘ問ひぬ。我は一聲アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]と叫べり。暫し我面を打まもりし主人は、再びあなやといひもあへず、もろ手もて顏を掩《おほ》ひつ。何人にもあらず、昔の友の一人なり、むかしおん身の惠にて、あまたの樂しき時を過し、あまたの幸福ある日を送りしものなり、何の爲めにか來べき、唯だ今一たび相見んの願ありて來つるのみといふ我聲は恥かしき迄震ひぬ。アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]は靜に手を垂れて頭を擧げたり。肉落ちて血色なく、死人の如き面なれど、これのみは年も病もえ奪はざりけん、暗黒にして、渡津海《わたつみ》のそこひなきにも譬へつべき瞳は、磁石の鐵を吸ふ如く、我面に注がれたり。アントニオ[#「アントニオ」に傍線]、かくて御身と相見んとは、つや/\思ひ掛けざりき。同じ憂き世の山路なれど、おん身はそを登る人、われはそを降る身なれば、相見て又何をかいふべき。疾《と》く行き給へと口には言へど、つれなき涙は※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]《まぶた》に餘りて、頬《ほ》の上に墮《お》ち來りぬ。われ。そは餘りに情なし。われはおん身の今不幸なるを知りぬ。むかし一言《こと》の白《せ
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