哩ナ《いひなづけ》の婦《つま》を愛するが如くならず。されどその人の婦とならんをば、われまた冷に傍より看ること能はざりしならん。今やフラミニア[#「フラミニア」に傍線]は死せり、現世《うつしよ》の爲めには亡人《なきひと》の數に入りたり。世にはこれを抱き、その唇に觸るゝことを得るものなし。是れ我が責《せめ》てもの慰藉也。
 海に往かん、往いて海の驚くべき景を觀ん。是れ我が新なる境界なり。ヱネチア[#「ヱネチア」に二重傍線]よ、水に泛《うか》べる都城よ、ハドリア[#「ハドリア」に二重傍線]の海の王女よ、願はくは我をして重れる山と黒き林とを過ぎることを須《もち》ゐず、空に翔《かけ》り波を凌《しの》ぎて汝と會することを得しめよとは、我が當時の夢なりき。
 初め我は先づフイレンチエ[#「フイレンチエ」に二重傍線]に往き、かしこよりボロニア[#「ボロニア」に二重傍線]、フエルララ[#「フエルララ」に二重傍線]を經て、ヱネチア[#「ヱネチア」に二重傍線]に達せんと欲せしに、今は忽ち前の計畫を擲《なげう》ち、スポレツトオ[#「スポレツトオ」に二重傍線]より雇車《やとひぐるま》を下り、暗夜身を郵便車に托し
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