ことを願はず、汝が心まことに樂しからずば、姑《しばら》く我が爲めに歌ふことを休《や》めよと宣給ひぬ。
 姫の我を信じ給ふことの厚きは、我が姫を信ずることの厚きに殊ならず。ある時姫の詞に、いかなる故とも知る由なけれど、館に往來《ゆきき》する他の男子には語り難き事をも、おん身には語り易し、御身の親しきは父母に劣らざる心地すといはれしことあり。されば我もまた心を置かで、何くれとなく物語するやうになりぬ。幼かりし日の事を語りて、地下の石窟《いはむろ》に入りて路を失ひし話よりジエンツアノ[#「ジエンツアノ」に二重傍線]の花祭に老侯の馬車の我母を轢殺《ひきころ》せし話に至りしときは、姫の驚|一方《ひとかた》ならざりき。姫は我手を※[#「てへん+參」、125−上段−13]《と》りて、我面を打目守《うちまも》り、その事をば館の人々まだ一たびも我に告げざりき、さては我|族《うから》の御身に負ふ所はいと大いなりと宣給ひぬ。カムパニア[#「カムパニア」に二重傍線]の媼《おうな》ドメニカ[#「ドメニカ」に傍線]には、姫深き同情を寄せ給ひて、おん身は定めて今も怠らずおとづれ給ふなるべしと宣給ひぬ。われは少しく
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