フ語調はいと温和にて、怨み憤る色もなく辨《わきま》へ難ずる色もなし。われは心の内にて、この優しき小尼公の前に跪《ひざまづ》かんとしたり。この時フランチエスカ[#「フランチエスカ」に傍線]の君も、げに/\をかしき物語なりきと宣給ふ。われは心《むね》の跳るを覺えて、そと人々に遠ざかり、身を長き幌《とばり》の蔭に隱して、窓の外なる涼しき空氣を呼吸したり。
この一口話の事をば、われ唯だ一の例として、かく詳《つぶさ》にはしるしゝなり。これより後も、日としてこれに似たる辱《はづかしめ》を被《かうむ》らざることなかりき。唯だ小尼公のすゞしき目の我面を見上げて、衆人の罪惡の爲めに代りて我に謝するに似たるありて、われはその辱の疇昔《さき》よりも忍び易きを覺えたり。竊《ひそか》におもふに我にはまことに弱點あり。そを何ぞといふに、影を顧みて自ら喜ぶ性《さが》ありて、難きを見て屈せざる質《うまれ》なきこと是なり。そもこの弱點はいづれの處よりか生ぜし。生を微賤の家に稟《う》けしにも因るべく、最初に受けし教育にも因るべく、又恆に人の廡下《ぶか》に倚る境遇にも因るなるべし。我は胸に溢れ口に發せんと欲するところのも
前へ
次へ
全674ページ中521ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
アンデルセン ハンス・クリスチャン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング