ォ來れり。舟は巖窟の中に進み入りて、我等の頭は巖に觸んとす。われは身をララ[#「ララ」に傍線]の上に俯したり。忽《たちまち》にして舟は杳茫《えうばう》として涯《かぎり》なき大海の上に出でぬ。頭《かうべ》を囘《めぐら》せば、斷崖千尺、斧もて削り成せる如くにして、乘る所の舟は崖下の小洞穴より濳《くゞ》り出でしなり。
 新月の光は怪しきまでに清澄なりき。斷崖の一隅に龕《がん》の形をなしたる低き岸あり。灌木|疎《まばら》に生じて、深紅の花を開ける草之に雜《まじ》れり。岸邊には一隻の帆船を繋げるを見る。翁は小舟を其側に留めしに、少女は期する所ある如く、身を起して我に向へり。われはその手に觸るゝことをだに敢てせずして、心の裡《うち》に我が遇ふ所の夢に非ず幻に非ず、さればとて又|現《うつゝ》にも非ず、人も我も遊魂の陰界に相見るものなるべきを思ひぬ。少女は、いざ藥草を采りて給へと云ひて、右手《めて》を我にさし着けたり。われは鬼に役《えき》せらるるものゝ如く、岸に登りて彼|香《かぐは》しき花を摘み、束ねて少女に遞與《わた》しつ。この時われは堪へ難き疲を覺えて、そのまゝ地上に僵《たふ》れ臥したり。われは猶
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