ァ事《みそかごと》して父母などに見られしに驚く小兒に似たりき。
 暫くして裏の方なる窓を敲《たゝ》く音す。新婦は驚きて頭を擡《もた》げ、耳|欹《そばだ》てゝ聞けり。敲く音は又響きて、何事をか戸外にて言ふ如くなれど、基詞は我が居るところには聞えず。新婦は忽ち聲高く呼べり。檀那《だんな》は何とて斯く遲くこゝに來給ひしぞ。何の用のおはすにか。うしろめたき事には侍らずやといふ。戸外の人は又何やらん言ひたり。新婦。さなり/\。おん詞はまことなり。おん身は手帳を忘れ置き給へり。さきに妹に持せて、麓《ふもと》なる宿屋まで遣りたれど、かしこにてはさる檀那は宿り給はずといひぬ。定めて山の上に宿り給ふならん。つとめて又持たせ遣らんとこそ思ひ侍りしなれ。手帳は現《げん》にこゝに在り。斯く云ひて、新婦《にひよめ》は抽箱《ひきだし》よりさきの手帳を取出せり。戸外の人は何やらん言へり。新婦は首を掉《ふ》りて、否々、門《かど》の口をばえひらき侍《はべ》らず、おん身のこゝに來給はんは宜《よろ》しからずと云ひ、起ちてかなたの窓を開きつ。手帳をわたさんとして差し伸べたる新婦の手をば、外より握りたりと覺しく、手帳ははたと音
前へ 次へ
全674ページ中466ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
アンデルセン ハンス・クリスチャン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング