ヌりぶね》を陸《くが》に曳き上げたり。暮色漸く至れば、新に點《とも》したる燈火その光を増して、水面《みのも》は碧色にかゞやけり。一時四隣は寂として聲なかりき。忽ち歌曲の聲の岸より起るあり。こは漁父の妻子と共に歌ひ出せるにて、子どもらしき「ソプラノ」の音は低き「バツソオ」の音にまじりたり。一種の言ふべからざる情は我胸に溢《あふ》れて、我心はこれがために震ひ動けり。一の流星あり。その疾《と》きこと撃石火《げきせきくわ》の如く、葡萄の林のあなたに隕《お》ちぬとぞ見えし。けふ我に接吻せし氣輕なる新婦《にひよめ》の家も亦彼林のあなたにあり。われは彼女主人の美《うつくし》かりしをおもひ出で、又彼|海神《ポセイドン》祠《し》[#「祠」は底本では「詞」]の畔《ほとり》なる瞽女《ごぜ》の美しかりしをおもひ出でしが、その背後には心と身と皆美しかりしアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線][#「アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]」は底本では「アンヌチヤタ[#「アンヌチヤタ」に傍線]」]ありて、その一たび點したる火は今も猶我身を焦せり。我は餘りの堪へ難さに、口に聖母《マドンナ》の御名《みな》を唱へて、瓶
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