]に對《むか》ひて云ふやう。君のいつも面白げに見え給ふことよ。犯しゝ科《とが》もあらねば、免《ゆる》すべき筋の事もなし。けふは何の新しき事を齎《もたら》し給ふ。佛蘭西《フランス》新聞には何の記事かありし。昨夜はいづくにてか時を過し給ひしと問ひぬ。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]。新聞には珍らしき事も候はず。昨夜は劇場にまゐりぬ。セヰルラ[#「セヰルラ」に二重傍線]の剃手《とこや》の僅に末齣《まつせつ》を餘したる頃なりき。ジヨゼフイイン[#「ジヨゼフイイン」に傍線]はまことに天使の如く歌ひしが、一たびアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]を聞きし耳には、猶飽かぬ節のみぞ多かりし。さはいへ我が往きしは彼曲のためにはあらず。即興詩を聞かんとてなりき。夫人。その即興詩人は君の心に協《かな》ひしか。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]。わが期《ご》する所の上に出でたり。否、衆人《もろひと》の期せし所の上に出でたり。我は諛《へつら》はんことを欲せず。又藝術は我等の批評もて輕重すべきものにあらず。されど我は夫人に告げんとす。夫人よ、渠《かれ》の即興詩をいかなる者とか思ひ給ふ。謳者《うたひて》
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