ヘ思はず。をぢ君のことば短なる物語にて、その概略《あらまし》を知りし時は、我等もいたく驚きたり。おん身はをぢ君の書を獲たるならん。その書は優しき書にはあらざりしならんといふ。我はこれを聞きつゝも、むかしの羈※[#「革+勺」、第3水準1−93−76]《きづな》の再び我身に纏《まつは》るゝを覺えて、只だ恩人に見放されたる不幸なる身の上を侘《かこ》ちぬ。公子は我を慰めがほに、又詞を繼いで云ふやう。否々、おん身を見放さんはをぢ君の志にあらず。我車に上りて共に來よ。今宵は妻のために思掛《おもひがけ》なき客を伴ひ還らんとす。カステラマレ[#「カステラマレ」に二重傍線]は遠くもあらず。旅宿は狹けれど、猶おん身が憩はん程の房《へや》はあるべし。をぢ君の性急なるはおん身も兼ねて知れるならずや。この和睦《わぼく》をばわれ誓ひて成し遂ぐべしといふ。我は首を垂れてこの成《たひら》ぎの覺束《おぼつか》なかるべきを告げしに、公子は無造作に我詞を打消して、我を延《ひ》きて車の方に往きぬ。
 車に乘りてより、公子は我に別後の事を語れと迫りぬ。わが賊寨《ぞくさい》に入りしことを語るに及びて、公子は面に笑を帶びて、そは即
前へ 次へ
全674ページ中416ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
アンデルセン ハンス・クリスチャン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング