m#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》りて、次第に撓《たわ》む梢頭の尊像を仰げり。一人の女房あり。口に聖母の御名《みな》を唱へつゝ、走りて火に赴きて死せんとす。爾時《そのとき》僅に數尺を剩《あま》したる烈火の壁面と女房との間に、馬を躍らして騎《の》り入りたる一士官あり。手に白刃を拔き持ちてかの女房を逐ひ郤《しりぞ》け、大音に呼びけるやう。物にや狂ふ、女子《をなご》、聖母《マドンナ》爭《いか》でか汝が援《たすけ》を求めん。聖母は彼|拙《つたな》く彩《いろど》りたる、罪障深きものゝ手に穢《けが》されたる影像の、灰燼となりて滅せんことをこそ願ふなれといふ。その聲はベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]が聲なり。その行《おこなひ》は※[#「倏」の「犬」に代えて「火」、第4水準2−1−57]忽《しゆくこつ》の間に一人の命を助けて、その言は俗僧の妄誕《ばうたん》をいましめ得たるなり。われはこの昔の友を敬する念を禁ずること能はずして、運命の我等二人を遠離《とほざ》けしを憾《うらみ》とせり。されど我胸は高く跳りて、今|渠《かれ》に對《むか》ひて名告《なの》り合ふことを欲せず、又能はざりき。

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