ゞ詩をおもふより外あらざりき。冬の夕暮、鍛冶の火高く燃えて、道ゆく百姓の立ち倚《よ》りて手を温むるとき、我は家の窓に坐して、これを見つゝ、時の過ぐるを知らず。かの鍛冶の火の中には、我空想の世の如き殊《こと》なる世ありとぞ覺えし。北山おろし劇《はげ》しうして、白雪街を籠め、廣こうぢの石の「トリイトン」に氷の鬚おふるときは、我喜限なかりき。憾《うら》むらくは、かゝる時の長からぬことよ。かゝる日には年ゆたかなる兆《きざし》とて、羊の裘《かはころも》きたる農夫ども、手を拍《う》ちて「トリイトン」のめぐりを踊りまはりき。噴き出づる水に雨は、晴れなんとする空にかゝれる虹の影映りて。
花祭
六月の事なりき。年ごとにジエンツアノ[#「ジエンツアノ」に二重傍線]にて執行せらるゝ、名高き花祭の期は近づきぬ。(ジエンツアノ[#「ジエンツアノ」に二重傍線]はアルバノ[#「アルバノ」に二重傍線]山間の小都會なり。羅馬と沼澤との間なる街道に近し。)母上とも、マリウチア[#「マリウチア」に傍線]とも仲好き女房ありて、かしこなる料理屋の妻となりたり。(伊太利の小料理屋にて「オステリア、エエ、クチイナ」と招
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