印したればなり。家壁には時に戸主の姓氏を刻めるを見る。又|招牌《かんばん》の遺れるあり。偶々《たま/\》その一を讀めば、石目細工の家と題したり。
家裏《やぬち》を窺ふに、多くは小房なり。門扇上若くは仰塵《てんじやう》より光を採りたり。中庭の大さは大抵僅に一小花壇若くは噴水ある一水盤を容るゝに足り、柱廊ありてこれを繞《めぐ》れり。壁又|歩牀《ゆか》には石目もて方圓種々の飾文を作る。白青赤などの顏料もて畫ける壁を見るに、舞妓、神物の類猶頗る鮮明なり。博士とフエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]とはこの美麗にして久しきに耐ふる顏料の性状を論ずと見えしが、いつかバヤルヂイ[#「バヤルヂイ」に傍線]が大著述の批評に言ひ及びて、身の何《いづれ》の處に在るかを忘るゝものゝ如くなりき。(バヤルヂイ[#「バヤルヂイ」に傍線]の著カタロオゴ、デリ、アンチイキイ、モヌメンチイ、デルコラノは大判紙十卷ありて千七百五十五年の刊行なり。)幸に我は平生多く書《ふみ》を讀まざりしかば、此物語に引き入れらるゝ虞《おそれ》なく、詩趣ゆたかなる四圍《あたり》の光景《ありさま》は、十分に我心胸に徹して、平生の苦辛はこれによ
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