tし給へ。君等の歩み寄り給ひしときは、われ早くこゝに坐して涼を貪《むさぼ》り居たり。御物語の祕事《ひめごと》と覺しきには、後に心付きしが、せんすべなかりしなり。されど哀れ深き御物語を聞きつとこそ思ひまゐらすれ、人に告ぐべきにはあらねば、惡しく思ひ取り給ふなといふ。われは間《ま》の惡さを忍びて夫人に禮を施し、友と共に踵《くびす》を旋《めぐら》したり。友は我を慰めて云ふやう。彼夫人の期せずして我等と物言ひしは、或は他日我等に利あらんも知るべからず。斯く言へば土耳格《トルコ》人めきたれど、われは運命論者なり。且汝の語りし所は國家の祕密などにはあらず。誰が心中の帳簿にも、此種の暗黒文字數葉なきことはあらざるべし。彼夫人の汝が言を聞きて泣きしは、或は他人の語中より自家の閲歴を聽き出し、他人の杯酒もて自家の磊塊《らいくわい》に澆《そゝ》ぎしにはあらずや。涙は己れのために出で易く、人のために出で難きこと、なべての情なればといひき。
我等は再び車に乘り途《と》に上りぬ。四邊《あたり》の草木はいよ/\茂れり。車に近き庭園、田圃の境には、多く蘆薈《ろくわい》を栽《う》ゑたるが、その高さ人の頭を凌げり。處
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