A再び手を握りて笑ひ興じたり。
 われは相別れてより後の身の上をつゞまやかに物語りぬ。そはドメニカ[#「ドメニカ」に傍線]が家にありしこと、羅馬に返りて學校に入りしことなどにて、それより後をばすべて省きつるなり。我は詞を改めて、さてこれよりはナポリ[#「ナポリ」に二重傍線]へ往かんとすと告げたり。
 むかし畫工と最後に相見たるは、カムパニア[#「カムパニア」に二重傍線]の野にての事なりき。その時畫工は早晩一たび我を羅馬に迎へんと約したり。畫工は猶當時の言を記し居りて、我にその約を履《ふ》まざりしを謝したり。君に別れて羅馬に歸りしに、故郷の音信《おとづれ》ありて、直ちに北國へ旅立つことゝなりぬ。その後數年の間は、故里《ふるさと》にありしが、伊太利の戀しさは始終忘れがたく、このたびはいよ/\思ひ定めて再遊の途に上りぬ。こゝはわが心の故郷なり。色彩あり、形相《ぎやうさう》あるは、伊太利の山河のみなり。わが曾遊の地に來たる樂しさをば、君もおもひ遣り給へといふ。
 彼問ひ我答ふる間に、路程の幾何《いくばく》をか過ぎけん。フオンヂイ[#「フオンヂイ」に二重傍線]の税關の煩ひをも、我心には覺えざりき
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