]みしより外知らず。已むことなくば只だ一たび山を見き。ジエンツアノ[#「ジエンツアノ」に二重傍線]の花祭に往きし途すがらの事なり。ネミ[#「ネミ」に二重傍線]湖畔の高原を歩みしに、道は暗く靜けき森林の間を通じたり。彼祭はわが爲には悲き祭なりければ、湖畔の道にて花束つくりしことをさへ、今猶忘れでありしなり、景は心目に上り來れり。今かく物語する時間の半をだに費さずして、景は情を生じ、情は景を生ずるほどに、我は絃を撥《はじ》きたり。情景は言の葉となり、言の葉は波起り波伏す詩句となりぬ。且我が歌ひしところを聽け。深き湖あり。暗き林はそを環《めぐ》れり。湖の畔なる巖は聳《そばだ》ちて天を摩せんとす。こゝに暴鷲《あらわし》の巣あり。母鳥は雛等に教へて、穉《をさな》き翼を振はしめ、またその目を鋭くせんために、日輪を睨ましめき。扨《さて》母鳥の云ひけるやう。汝達は諸鳥の王なるぞ。目は利《と》く、拳は強し。いでや飛べ。飛びて母の側を去れ。我目は汝を送り、我情は彼の死に臨める大鵝《たいが》の簧舌《くわうぜつ》の如く汝が上を歌ふべし。その歌は不撓の氣力を題とせんといひき。雛等は巣立せり。一隻は翅《はね》を近
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