のみ憶ひてあるべきに、君が昔話を聞きて、端なくもわが心の裡に雕《ゑ》られたる圖を繰りひろげつゝ、身のめぐりなるめでたき畫どもを忘れたりとて、姫は我に先だちて歩を移しき。
わがアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]と老媼《おうな》とを伴ひて旅館にかへりしとき、門守る男はベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]が留守におとづれしことを告げたり。我友はこの男の口より二婦人を連れ出だしゝものゝ我なるを聞けりといふ。友の怒は想ふに堪へたり。かゝる事あるごとに、我は前《さき》の日には必ず氣遣ひ憂ふる習なりしが、アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]に對する戀は我に彼友に抗する心を生ぜしめき。さきには友我を性格なし、意志なしと罵りき。今はわれ友に見《しめ》すに我性格と我意志とをもてすべしとおもひぬ。
姫が猶太教徒の籠の内に養はれきといふ詞は、絶えず我耳の根にあり。依りておもふに、友がハノホ[#「ハノホ」に傍線]の許にて見きといふ少女はアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]なりしならん。されど又姫にそを問ふ機會あるべきか、心許《こゝろもと》なし。
あくる日往きしときは、姫は一間にありて某
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