に謝する色現れつれ、かしこにては思出さるゝ暇なからん。さはあれ一個の婦人にのみ心を傾くるは癡漢《ちかん》の事なり。羅馬には女子多し。野に遍《あまね》き花のいろ/\は人の摘み人の采《と》るに任するにあらずや。
この夕我はベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]と共に芝居に往きぬ。アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]は再びヂド[#「ヂド」に傍線]となりて出でぬ。その歌、その振《ふり》、始に讓らざりき。完備せるものゝ上には完備を添ふるに由なし。姫が技藝はまことに其域に達したるなり。こよひは姫また我理想の女子となりぬ。その本讀の曲にての役《やく》、その平生の擧動は、例へば天上の仙の暫くこの世に降りて、人間の態をなせるが如くぞおもはるる。その態《さま》も好し。されどヂド[#「ヂド」に傍線]の役にては、姫が全幅の精神を見るべし。姫がまことの我《われ》を見るべし。萬客は又狂せり。想ふにこの羅馬の民のむかし該撤《カエザル》とチツス[#「チツス」に傍線]とを迎へけん歡も、おそらくは今宵の上に出でざるならん。曲|畢《をは》りて姫は衆人に向ひて謝辭を陳《の》べ、再びこゝに來んことを約せり。姫はこよひ
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