泣鴻刀vに傍線]、古代の力士、圓鐵板《ヂスコス》投ぐる男の像等に肖《に》せたる假面の事など、次を逐《お》ひて談柄となりぬ。獨りかの猶太種と覺しき老女のみはこの賑しき物語に與《あづか》らで、をり/\姫がことさらに物言掛けたる時、僅に輕く頷くのみなりき。この時姫の態度に心をつくるに、きのふ芝居にて思ひしとは、甚しき相違あり。その家にありてのさまは、世を面白く渡りて、物に拘《こだは》ることなき尋常の少女なり。されどわが姫を悦ぶ心はこれがために毫《すこ》しも減ぜず。この穉《をさな》き振舞は却《かへ》りてあやしく我心に協《かな》ひき。姫は譯もなき戲言《ざれごと》をも、面白くいひ出でゝ、我をも人をも興ぜさせ居たりしが、俄にこゝろ付きたるやうに※[#「金+表」、51−中段−7]《とけい》を見て、はや化粧すべき時こそ來ぬれ、今宵は樂劇の本讀《ラ、プルオバ、ヅン、オペラ、セリア》のうちなる役に中《あた》り居ればとて座を起ち、側なる小房のうちに入りぬ。
 門を出でたるとき。われ。汝が惠によりてゆくりなき幸に逢ひしことよ。舞臺なるを見し面白さに讓らぬ面白さなりき。さはれ汝はいかにして彼君とかく迄親くはなりし
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