ことを願はず、汝が心まことに樂しからずば、姑《しばら》く我が爲めに歌ふことを休《や》めよと宣給ひぬ。
姫の我を信じ給ふことの厚きは、我が姫を信ずることの厚きに殊ならず。ある時姫の詞に、いかなる故とも知る由なけれど、館に往來《ゆきき》する他の男子には語り難き事をも、おん身には語り易し、御身の親しきは父母に劣らざる心地すといはれしことあり。されば我もまた心を置かで、何くれとなく物語するやうになりぬ。幼かりし日の事を語りて、地下の石窟《いはむろ》に入りて路を失ひし話よりジエンツアノ[#「ジエンツアノ」に二重傍線]の花祭に老侯の馬車の我母を轢殺《ひきころ》せし話に至りしときは、姫の驚|一方《ひとかた》ならざりき。姫は我手を※[#「てへん+參」、125−上段−13]《と》りて、我面を打目守《うちまも》り、その事をば館の人々まだ一たびも我に告げざりき、さては我|族《うから》の御身に負ふ所はいと大いなりと宣給ひぬ。カムパニア[#「カムパニア」に二重傍線]の媼《おうな》ドメニカ[#「ドメニカ」に傍線]には、姫深き同情を寄せ給ひて、おん身は定めて今も怠らずおとづれ給ふなるべしと宣給ひぬ。われは少しく心に恥ぢながら、去年は唯だ二たび訪ひしのみなれど、彼方より尋ね來たるごとに、些《ちと》の小づかひ錢をば分ち與ふるを例とすと答へぬ。
われは姫に促されて、我自傳を語りつゞけ、ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]の上に及び、又アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]の上に及びぬ。されど我面に注ぎたる姫の涼しき目は、我をして縱《ほしいまゝ》に戀愛を説き嫉妬を説くこと能はざらしめき。われは話題を轉じてナポリ[#「ナポリ」に二重傍線]の紀行に入り、ララ[#「ララ」に傍線]の事を語り、こたびは又サンタ[#「サンタ」に傍線]の事にさへ及びぬ。
最も姫の心に※[#「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1−84−56]《かな》ひしはララ[#「ララ」に傍線]なり。姫の宜給ふやう。アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]は美しくもありしなるべく、賢《さか》しくもありしなるべし。されど面を公衆の前に曝《さら》すことを憚《はゞか》らず、浮薄なる貴公子を戀ひ慕へるなど、われはいかなる詞もて評すべきを知らぬながら、その人のおん身の妻とならざりしをば喜ぶなり。ララ[#「ララ」に傍線]はこれに異《こと》にて、ま
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