]市を擔ひ行くなる「ベフアアナ」といふ偶人《にんぎやう》の、面色極めて奇醜にして、目には硝子球を嵌《は》めたるにも譬へつべきものとなりぬ。是れ聽衆の口々より※[#「口+罅のつくり」、122−上段−20]《は》きたる毒氣のわが美の影圖をして此の如く變化せしめしにぞありける。
おん身のダヰツト[#「ダヰツト」に傍線]は市井《しせい》の俗人をだに殺すことなからん、とはハツバス・ダアダア[#「ハツバス・ダアダア」に傍線]が總評なりき。人々は又評して宣給ふやう。篇中往々好き處なきにあらず。そは情深きと無邪氣なるとの二つに本づけりとなり。我は頭を低《た》れて口に一語を出さず、罪囚の刑の宣告を受くるやうなる心地にて、人々の前に凝立せり。ハツバス・ダアダア[#「ハツバス・ダアダア」に傍線]は再びホラチウス[#「ホラチウス」に傍線]の教を忘れ給ふなと繰返しつゝも、猶|慇懃《いんぎん》に我手を握りて、詩人よ、懋《つと》めよやと云ひぬ。我は室の一隅に退きたりしが、暫しありて同じハツバス・ダアダア[#「ハツバス・ダアダア」に傍線]が耳疎き人の癖とて、聲高くフアビアニ[#「フアビアニ」に傍線]公子にさゝやくを聞きつ。そは杜撰《づさん》彼篇の如きは己れの未だ嘗て見ざるところぞとの事なりき。
人々は我詩を解せざらんとせり。又我を解せざらんとせり。こは我が忍ぶこと能はざるところなり。室の隣には、開爐《カムミノ》に炭火を焚きたる廣間あり。われはこれに退き入り、手に詩稾《しかう》を把《と》りて、爪甲《さうかふ》の掌《たなぞこ》を穿たんばかりに握りたり。嗚呼、我夢は一瞬の間に醒め、我希望は一瞬の間に破壞せられたり。我身は神の御姿《みすがた》の摸造ながら、自ら顧みれば苦※[#「穴/(瓜+瓜)」、122−中段−15]《くゆ》の器に殊ならず。われは我|鍾愛《しようあい》の物、我がしば/\接吻せし物、我が心血を漑《そゝ》ぎし物、我が性命ある活思想とも稱すべき物をもて、熾火《しくわ》の裡に擲《なげう》ちたり。我詩卷は炎々として燃え上れり。忽ちアントニオ[#「アントニオ」に傍線]と叫ぶ一聲我身邊より起りて、小尼公《アベヂツサ》の優しき腕《かひな》の爐中の詩卷を攫《つか》まんとせし時、事の慌忙《あわたゞ》しさに足踏みすべらしたるなるべし、この天使の如き少女はあと叫びて、横ざまに身を火※[#「諂のつくり+炎」、第
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