sこわね》は尋常《よのつね》ならず、譬へば泉下の人の假に形を現して物言ふが如くなりき。我即興詩は漫《みだ》りに混沌の竅《あな》を穿《うが》ちて、少女に宇宙の美を教へき。今や少女は期《ご》せずして我前に來り、我に眼を開かんことを請《こ》へり。われは少女の聲の我心魂に徹するを覺えて、口一語を出すこと能はず、只だ手を少女の方にさし伸べたるのみ。少女は再び身を起して、我に光明を授け給へと唱へかけしが、張り詰めし氣や弛《ゆる》みけん、小舟の中にはたと伏し、舷側《ふなばた》なる水ははら/\と火花を飛しつ。
 翁は暫く身を屈して、少女のさまを覗《うかゞ》ひ居たるが、やをら岸に登りて、きと眼を我姿に注ぎ、空中に十字を書し、彼|大銅鉢《だいどうはつ》を抱いて舟中に移し、己も續いて乘りうつれり。われは思慮するに遑《いとま》あらずして、同じく舟に上りしに、翁は我を迎へんともせず、さればとて又我を拒《こば》まんともせず、只だ目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》りて我を視るのみ。翁は又|※[#「舟+虜」、第4水準2−85−82]《ろ》を握りて、彼青き星に向ひて漕ぎ行けり。冷なる風は舟に向ひて吹き來れり。舟は巖窟の中に進み入りて、我等の頭は巖に觸んとす。われは身をララ[#「ララ」に傍線]の上に俯したり。忽《たちまち》にして舟は杳茫《えうばう》として涯《かぎり》なき大海の上に出でぬ。頭《かうべ》を囘《めぐら》せば、斷崖千尺、斧もて削り成せる如くにして、乘る所の舟は崖下の小洞穴より濳《くゞ》り出でしなり。
 新月の光は怪しきまでに清澄なりき。斷崖の一隅に龕《がん》の形をなしたる低き岸あり。灌木|疎《まばら》に生じて、深紅の花を開ける草之に雜《まじ》れり。岸邊には一隻の帆船を繋げるを見る。翁は小舟を其側に留めしに、少女は期する所ある如く、身を起して我に向へり。われはその手に觸るゝことをだに敢てせずして、心の裡《うち》に我が遇ふ所の夢に非ず幻に非ず、さればとて又|現《うつゝ》にも非ず、人も我も遊魂の陰界に相見るものなるべきを思ひぬ。少女は、いざ藥草を采りて給へと云ひて、右手《めて》を我にさし着けたり。われは鬼に役《えき》せらるるものゝ如く、岸に登りて彼|香《かぐは》しき花を摘み、束ねて少女に遞與《わた》しつ。この時われは堪へ難き疲を覺えて、そのまゝ地上に僵《たふ》れ臥したり。われは猶
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