オて窓の外に落ちたり。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]の頭は此響と共に窓の内に顯れたり。新婦は走りてこなたの窓のほとりに來つ。これより後我は明に二人の詞を辨ずることを得るに至りぬ。
 ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]。さらば君はわが感謝のために君の手に接吻するをだに許し給はぬにや。物落しし人の拾ひ主に謝するは世の習ならずや。そが上に走りてこゝに來つれば、喉乾きて堪へ難し。我に一杯《ひとつき》の酒を飮ませ給ふとも、誰かはそを惡しき事といはん。何故に君は我がそこに入らんとするを拒《こば》み給ふぞ。新婦。否、かく夜ふけておん身と物言ひ交すだに影護《うしろめた》き事なり。疾《と》くおん身の手帳を取りて歸り給へ、我は窓を鎖すべきに。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]。我はおん身の手を握らでは歸らず。おん身のけふ我に惜みて、彼馬鹿者に與へ給ひし接吻を取り返さでは歸らず。新婦は周章の間に一聲の笑を洩せり。否々。君は人の與へざる所のものを奪はんとし給ふにや。君強ひて奪はんとし給はゞ、われまた誓ひて與へざるべしといふ。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]は哀れげなる聲していふやう。我等の相見るはこれを限なるを思ひ給へ。われは再び此地に來るものにあらず。さるを君は我が手を握らんといふをだに聽き納《い》れたまはず。我胸には君に言ふべき事さはなれど、君が手を握らんの願の外は、われ敢て口に出さじ。聖母《マドンナ》は我等に何とか教へ給ふぞ。人は兄弟姉妹の如く相愛せよとこそ宣給《のたま》へ。われはおん身の兄弟なり。我黄金をおん身と分ちて、おん身の艷《あで》やかなる姿を飾る料《かて》となさんとこそ願へ。貴き飾を身に着け給はば、おん身の美しさ幾倍なるべきぞ。おん身の友だちは皆おん身を羨むべし。されど我とおんみとの中をば世に一人として知るものなからん。斯く云ひも果てず、ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]は一躍して窓より入りぬ。新婦《にひよめ》は高く聖母の名を叫べり。
 われは表の窓に走り寄りて、力を極めて其扉を打ちたり。硝子《ガラス》はから/\と鳴りたり。我は目に見えぬ威力に驅らるゝものゝ如く、走りて裏口に至り、得物《えもの》もがなと見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]す傍《かたへ》の、葡萄|架《だな》の横木引きちぎりつ。女はニコオロ[#「ニコオロ」に傍線]にやと叫べり。さなり、我
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