轤ネ》れり。平地には菫花《すみれ》多く、薊《あざみ》その外の雜草の間に咲きひろごりたり。自然の力|餘《あまり》ありて人間の工《たくみ》を加へざる處なれば、草といふ草、木といふ木、おのがじし生ひ榮ゆるが中に、蘆薈、無花果《いちじゆく》、色紅なる「ピユレトルム、インヂクム」などの枝葉《えだは》さしかはしたる、殊に目ざましくぞ覺えられし。
 シチリア[#「シチリア」に二重傍線]の自然、その豐饒《ほうねう》の一面と荒蕪の一面とはこゝにあり。シチリア[#「シチリア」に二重傍線]の希臘古祠はこゝにあり。而してシチリア[#「シチリア」に二重傍線]の貧窶《ひんく》もまたこゝにあり。一行のめぐりには一群の乞丐《かたゐ》來り集ひたり。その状《さま》南海諸島の蕃人にも似たるべし。男子は長き羊の皮を、毛を表にして身に纏へり。暗褐色なる雙脚には靴を穿かず、剪《き》らざる髮は黒き面の邊に翻《ひるがへ》り垂れたり。妬《ねた》ましき迄に直《すぐ》に美しく生ひ立ちたる娘たちのこれに隨へるを見るに、そのさま半ば赤はだかなりといふべし。膝の上まで截《き》り開きたる短衣は裂け綻《ほころ》び、鬆《ゆる》く肩に纏へる外套めきたる褐色《かちいろ》の布は垢つきよごれ、長き黒髮をば項《うなじ》に束ね、美しき目よりは恐ろしき光を放てり。
 此群に十二歳を踰《こ》えじと見ゆる、すぐれて麗《うるは》しき娘あり。アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]となるべき姿にもあらず、さればとて又サンタ[#「サンタ」に傍線]となるべき貌にもあらず。前にアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]が物語に聞きつる、メヂチ[#「メヂチ」に傍線]家の愛憐[#「愛憐」は底本では「受憐」]神女の像は、かゝる面影あるにはあらずやと思はる。實に此|少女《をとめ》の清き容《かたち》は、人をして囘抱せんと欲せしむるものにあらで、却りて膜拜《もはい》せんと欲せしむるものなり。
 この少女は少し群を離れて立てり。褐《かち》色なる方巾《はうきん》偏肩《へんけん》より垂れたるが、巾《きれ》を纏《まと》はざる方《かた》の胸と臂《ひぢ》とは悉く現はれたり。雙脚には何物をも着けざりき。かくはかなき身と生れても、流石《さすが》に粧《よそほ》ひ飾る心をば持ちたるにや、髮平かに結ひ上げて、一束の菫花《すみれ》を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13
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