ィん身を知ることを得たるを喜ぶならんといふ。此挨拶は固《もと》より我心に慊《あきたら》ねど、われは又恩惠のために口を塞がれたり。少年は我方に向ひぬ。さらばわれ自ら我身を紹介すべし。おん身の何人たるは我既に知れり。我名はジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]なり。國王陛下の護衞たる一將校なり。(微笑《ほゝゑ》みつゝ)拿破里《ナポリ》の名族にて、世の人は第一に位すとぞいふ。そは僞にもあらざるべし。就中《なかんづく》わがをばは頗るこれに重きを置けり。おん身の如きを知るは、大いなる幸なり。おん身の才と云ひおん身の吭《のど》と云ひと、猶詞を繼がんとするを、フアビアニ[#「フアビアニ」に傍線]は押しとゞめて、止めよ/\、さる挨拶を受くることは猶不慣なるべし、紹介とやらんも最早濟みたるべければ、夫人の許に往かん、かしこには又和議といふ難關あり、おん身仲裁の煩を避けずば、今の辯舌を殘し置きて其時の用に立てよと云ひつゝ、彼士官と我とを延《ひ》きて、旅店の一間《ひとま》に進み入りぬ。われはこの生客《せいかく》の前にて、我身の上の大事を語らるゝを喜ばねど、二人は親しき友なるべければと自ら思ひのどめて、遲れ勝《がち》に跟《したが》ひ行きぬ。
やうやくにして歸り給ひしよと迎ふるは、久しく面を見ざりしフランチエスカ[#「フランチエスカ」に傍線]の君なりき。公子。現《げ》にやうやくにして歸りぬ。されど二人の賓客を伴へり、夫人は一聲アントニオ[#「アントニオ」に傍線]と云ひしが、忽《たちまち》又調子を更《か》へてアントニオ[#「アントニオ」に傍線]君《ぎみ》と云ひつゝ、その嚴《おごそ》かに落つきたる目を擧げて、夫と我とを見くらべたり。われは身を僂《かゞ》めてその手に接吻せんとせしに、夫人は我を顧みず、手をジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]にさし伸べて、晩餐の友を得たる喜を述べ、夫に向ひて、ヱズヰオ[#「ヱズヰオ」に二重傍線]の爆發はいかなりし、熔巖はいづ方へ流れんとするなど問ひぬ。公子は略《ほ》ぼ見しところを語りて、我等の邂逅の事に及び、今は客として伴ひたれば昔の事を責め給ふなと云へり。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]。然《さ》なり。此人いかなる罪を犯しゝか知らず。されど天才には何事をも許さるべきならずや。夫人は纔《わづか》に面を和《やはら》げて我に會釋しつゝジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍
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