o爐より出づる如し。其幅は極めて闊《ひろ》し。蒸氣の此流を被へるものは火に映じて殷紅《あんこう》なり。四圍は暗黒にして、空氣には硫黄の氣滿ちたり。われは地底の雷聲と天半の火柱と此流とを見聞《みきゝ》して、心中の弱處病處の一時に滅盡するを覺えたり。われは胸前《むなさき》に合掌して、神よ、詩人も亦汝の預言者なり、その聲は寺裏に法を説く僧侶より大なるべし、我に力あらせ給へ、我心の清きを護り給へと念じたり。
 われ等は歸途に就《つ》きたり。此時身邊なる熔岩の流に、爆然聲ありて、陷穽《かんせい》を生じ炎焔《ほのほ》を吐くを見き。されどわれは復《ま》た戰《をのゝ》き慄《ふる》ふことなかりき。一行は積灰の新に降れる雪の如きを蹴《け》て、且滑り且降るほどに、一時間の來路は十分間の去路となりて、何の勞苦をも覺えざりき。われもフエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]も心に此遊の徒事ならざりしを喜びあへり。驢に乘りて草寮《こや》に至れば、博士は踞座して我等を待てり。促し立てゝ共に出づるに、風|斂《をさま》り月明かなり。拿破里《ナポリ》灣に沿ひて行けば、熔岩の赤き影と明月の青き影と、波面に二條の長蛇を跳らしむ。聞説《きくな》らく、昔はボツカチヨオ[#「ボツカチヨオ」に傍線]涙をヰルギリウス[#「ヰルギリウス」に傍線]の墳《つか》に灑《そゝ》ぎて、譽を天下に馳せたりとぞ。われ韮才《ひさい》、固《もと》よりこれに比すべきにあらねど、けふヱズヰオ[#「ヱズヰオ」に二重傍線]の山の我詩思を養ひしは、未だ必ずしもむかし詩人の墳のボツカチヨオ[#「ボツカチヨオ」に傍線]の天才を發せしに似ずばあらず。
 博士はわれ等を誘ひて其家にかへりぬ。われは前度の別をおもひて、サンタ[#「サンタ」に傍線]夫人との應對いかがあらんと氣遣ひしに、夫人の優しく打解けたるさまは、毫も疇昔《ちうせき》に異ならざりき。夫人はわが即興の手際を見んとて、こよひの登山を歌はせ、辭《ことば》を窮《きは》めて我才を讚めたり。

   嚢家

 サンタ[#「サンタ」に傍線]のわれに優しきことは昔に變らず。されど人なき處にてこれと相見んことの影護《うしろめ》たくて、若しフエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]の共に往かざるときは、必ず人の先づ集《つど》ひたらん頃を待ちて、始ておとなふこととなしつ。現《げ》にあやしきものは人の心なり。曾て心にだに留《
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