tになりたる小灌木、半ば枯れたる草の莖もあらずなりぬ。夜はいと明《あか》けれど、強く寒き風は忽ち起りぬ。將《まさ》に沒せんとする日は熾《さかり》なる火の如く、天をば黄金色ならしめ、海をば藍碧色ならしめ、海の上なる群れる島嶼《たうしよ》をば淡青なる雲にまがはせたり。眞に是れ一の夢幻界なり。灣《いりえ》に沿へる拿破里の市《まち》は次第に暮色微茫の中に沒せり。眸《ひとみ》を放ちて遠く望めば、雪を戴けるアルピイ[#「アルピイ」に二重傍線]の山脈氷もて削り成せるが如し。
 紅《くれなゐ》なる熔巖の流は、今や目睫《もくせふ》に迫り來りぬ。道絶ゆるところに、黒き熔巖もて掩《おほ》はれたる廣き面《おも》あり。驢馬は蹄《ひづめ》を下すごとに、先づ探りて而る後に踏めり。既にして一の隆起したる處に逢ふ。その状《さま》新に此熔巖の海に涌出せる孤島の如し。されど其草木は只だ丈低き灌木の疎《まばら》に生ぜるを見るのみ。この處に山人《やまびと》の草寮《こや》あり。兵卒數人火を圍みて聖涙酒を呑めり。(「ラクリメエ、クリスチイ」とて葡萄酒の名なり。)こは遊覽の客を護りて賊を防ぐものなりとぞ。われ等を望み見て身を起し、松明《まつ》を點じて導かんとす。劇《はげ》しき風に焔は横さまに吹き靡《なび》けられ、滅《き》えんと欲して僅に燃ゆ。博士は疲れたりとて草寮《こや》に留まりぬ。我等の往手は巖の間なる細徑にて、熔巖の塊の蹄に觸るゝもの多し。處々道の險しき谿《たに》に臨めるを見る。
 既にして黒き灰もて盛り成したる山上の山ありて、我等の前に横はりぬ。我等は皆|徒立《かちだち》となりて、驢《うさぎうま》をば口とりの童にあづけおきぬ。兵卒は松明振り翳《かざ》して斜に道取りて進めり。灰は踝《くるぶし》を沒し又膝を沒す。石片又は熔巖の塊ありて、歩ごとに滾《ころが》り落つるが故に、縱《たて》に列びて登るに由なし。我等は雙脚に鉛を懸けたる如く、一歩を進みては又一歩を退き、只だ一つところに在るやうに覺えたり。兵卒は、巓近し、今一息に候と叫びて、我等を勵《はげま》したり。されど仰ぎ視れば山の高きこと始に異ならず。一時|許《ばかり》にして僅に巓に到りぬ。われは奇を好む心に驅られて、直に踵《くびす》を兵卒に接したれば、先づ足を此山の巓に着けたり。
 巓は大なる平地にして、大小いろ/\なる熔巖の塊《かたまり》錯落として途に横《よこた
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