フ新しき衣《きぬ》をだに譽《ほ》め給へ。好く似合ひたるにあらずや。體にひたと着《つ》きてめでたからずや。詩人はかゝる些細なる事をも心に留めでは叶はぬものなり。我姿のすらりと痩せて「ピニヨロ」の木の如くなるを見給はずや。われ。そは直ちに心付き候ひぬ。夫人。おん身はまことに世辭《せじ》好《よ》き人なり。我姿はいつもの通りなり。衣は緩《ゆる》く包みし袱《ふく》の如し。否々、面を赤うし給ふことかは。おん身も年若き男達の癖をばえ逃れ給はずと思はる。今少し多く女子《をなご》に交り給へ。われ等はおん身を教育すべし。おん身の友と我夫とは、今その考古學の深みに嵌《は》まり居て、身動きだにせざるならん。いざ共に「フアレルノ」を飮まん。後には人々と同じく改めて杯を把り給ひても好しといふ。夫人に斯く勸められて、われは急に酒飮むことを辭《いな》み、世の常の物語せばやと、一言二言いひ試みしが、胸の憂に詞《ことば》淀《よど》みて、いかにも心苦しければ、夫人よ恕《ゆる》し給へ、われは今快からず、さるを強ひて物語せば、そは徒《いたづら》におん身を惱ますに近からんと云ひつゝ、起ちて帽を取らんとせしに、夫人は忽ち我手を把《と》りて再び椅子に着かしめ、優しく我顏を目守《まも》りて云ふやう。今は歸し參らせじ。おん身は何事にか遭ひ給ひしならん。心を隔て給ふことかは。わが氣輕なる詞つきは、おん身の心を傷つけたらんも計られねど、そは稟賦《うまれつき》なれば、是非なし。われはまことにおん身の上を氣遣へり。何事にか遭ひ給ひしならば、包まずわれに語り給へ。故里《ふるさと》の文《ふみ》をや得給ひし。ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]が創のためにみまかりしにはあらずやと云ふ。初めわれは主公の書《ふみ》を得たることを此人に告げん心なかりしが、斯く問はれて心弱く、有の儘に物語りぬ。さて詞を續ぎて、われは全く世に棄てられたり、世には一人の猶我を愛するものなしと欷歔《ききよ》して叫びし時、否、アントニオ[#「アントニオ」に傍線]と云ふ聲耳に響きて、われは温き掌の我額を撫で、忽《たちまち》又熱き唇の其上に觸るゝを覺えき。否、アントニオ[#「アントニオ」に傍線]猶おん身を愛する人あり。おん身は善き人なり、可哀き人なり。夫人はかく言ひつゝ、もろ手もて我頭を抱き、その頬は我耳の邊に觸れたり。我血は湧き返りて、渾身震ひ氣息|塞《ふさ》
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