kンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]も男欲しかりしなり。斯く言ひ掛けて、サンタ[#「サンタ」に傍線]は愛らしき聲して笑ひ、おん身の餘りに罪なき性《さが》なるため、我に女の口より言ひ難き事さへ言はしめ給ふこそ憎けれとて、指もて我頬を彈《はじ》きたり。
旅店に還りて獨り思ふに、サンタ[#「サンタ」に傍線]の我を評する言は、昔ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]の我を評せし言と同じ。此頃又フエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]の話を聞きしに、その羅馬にありし日の經歴には、我の夢にだに知らざるやうなることもありて、賤《いや》しきマリウチア[#「マリウチア」に傍線]さへその事に與《あづか》れりといふ。世の人はわが厭ひおそるゝところのものを悦び樂むにや。アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]の我を棄てゝベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]を取りしなどは、現《げ》にもこれを證して餘あるが如くなり。果して然らばアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]は我感情を愛して我意志を嫌ひしにやあらん。あらず、わが意志の闕乏《けつばう》を嫌ひしにやあらん、いと覺束《おぼつか》なく心許《こゝろもと》なき事にこそ。
絶交書
拿破里《ナポリ》に來てより既に一月を經ぬ。さるにアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]とベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]との上に就きては、何の聞くところもあらず。或夕一封の書は到りぬ。何人のいかなる便するにかと、打ち返してこれを見るに、印はボルゲエゼ[#「ボルゲエゼ」に傍線]家の印にして、筆は主公の筆なり。われは心に聖母《マドンナ》を祈りつゝ、開いてこれを讀みたり。其文に曰く。
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御書状拜讀|仕候《つかまつりそろ》。素《も》と拙者の貴君の御世話|可致《いたすべく》と決心候節、貴君の爲めに謀《はかり》候は、當地に於いて正當なる教育を受けられ、社會に益ある一人物となられ候樣にと希望候儀に有之《これあり》候。然處《しかるところ》貴君の行跡全く此希望と相反《あひそむき》候は、今更是非なき次第と諦念《あきらめ》候より外無之候。當初|御萱堂《ごけんだう》不幸之|砌《みぎり》、存寄《ぞんじよ》らざる儀とは申《まうし》ながら、拙者の身上共禍因と連係候故、報謝の一端にもと志候御世話も、此の如く相終候上は、最早債を償《つぐの》ひ劵《ふだ》を折
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