@葉《はちすは》の如くなりき。忽ち隻翼は又|聳《そばだ》ち起り、竹を割《さ》く如き聲と共に、一翼はひたと水に着き、一翼は劇《はげ》しく水を鞭《う》ち沫《しぶき》を飛ばすと見る間に、鳥も魚も沈みて痕なくなりぬ。母鳥は悲鳴して、巖角なる一隻の雛を顧みるに、こもいつか在らずなりて、首を仰いで遠く望めば、只だ一黒斑の日に向ひて飛ぶを見き。母鳥は悲を轉じて喜となしたり。その胸は高く躍りて、その聲は折るれども撓《たわ》まぬ力を歌ひぬ。我歌はこゝに終り、喝采の聲は座に滿ちぬ。獨り我は※[#「目+寅」、第4水準2−82−14]《またゝき》きもせで、龕《がん》の前なる老女をまもり居たり。そは我が歌ひて半に至りし時、老女の絲繰る手やうやく緩く、はては全く歇《や》みて、暗き瞳の光は我面を穿《うが》つ如く、こなたに注がれたればなり。又我が能く少時の夢を喚《よ》び起して、この詩中に入るゝことの、かくまで細かなることを得しは、この老女の振舞|與《あづか》りて力ありければなり。
媼《おうな》は忽ち身を起し、健《すこや》かなる歩みざまして我前に來て云ふやう。能くも歌ひて、身のしろを贏《か》ち得つるよ。吭《のど》の響はやがて黄金《こがね》の響ぞ。鳥と魚との水底に沈みし時にこそ、この姥《うば》は汝が星の躔《やど》るところを見つれ。鷲よ。いで日に向ひて飛べ。老いたる母は巣にありて、喜の目もてそを見送らんとす。汝が翼をば、誰にも折らせじといふ。我に勸めて歌はせし男|恭《うや/\》しく媼の前に※[#「石+盍」、第4水準2−82−51]頭《ぬかづ》きて、さてはフルヰア[#「フルヰア」に傍線]の君は此わかうどを見給ひしことあるか、又その歌を聞き給ひしことあるかと問ひぬ。媼。そは汝の知らぬ事なり。われは早く幸運の兒の身と光と眼の星とを見き。兒はむかし花の環を作りぬ。後又愈※[#二の字点、1−2−22]美しき花の環を作るならん。その臂《ひぢ》を縛《いまし》むべきことかは。六日が程は巣にあれかし。脊に爪打ち込みしにはあらず。六日立たば、汝この雛を放ち遣りて、日の邊へ飛ばしめよ。斯くつぶやきつゝ、媼は壁の前なる筐《はこ》を探りて、紙と筆とを取り出でつ。あな、やくなし。墨は巖の如くなりぬ。コスモ[#「コスモ」に傍線]よ。人の上のみにはあらず。汝が腕の血を呉れずやといふ。コスモ[#「コスモ」に傍線]と喚《よ》ばれし彼男は
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