A大なる布を頭より被せ、頸のまはりに結びたれば、それより方角だに辨《わきま》へられず。諸手《もろて》をば縛《いまし》められたり。我|身上《みのうへ》は今や獵夫《さつを》に獲られたる獸にも劣れり。されど憂に心|昧《くら》みたる上なれば、苦しとも思はでせくゞまり居たり。馬の前足は大方仰ぐのみなれど、ともすれば又暫し阪道を降る心地す。茂りあひたる梢は頻りに我頬を拊《う》てり。道なき處をや騎《の》り行くらん覺束《おぼつか》なし。
 久しき後馬より卸《おろ》して、我を推して進ましむ。かれこれ復た隻語《せきご》を交へず。狹き門を過ぎて梯《はしご》を降りぬ。心神定まらず、送迎|忙《いそが》はしき際の事とて、方角|道程《みちのり》よくも辨へねど、山に入ること太《はなは》だ深きにはあらずと思はれぬ。わがその何れの地なるを知りしは、年あまた過ぎての事なり。後には外國人《とつくにびと》も尋ね入り、畫工の筆にも上りぬ。こゝは古《いにしへ》のツスクルム[#「ツスクルム」に二重傍線]の地なり。栗の林、丈高き月桂《ラウレオ》の村立《むらだち》ある丘陵にて、今フラスカアチ[#「フラスカアチ」に二重傍線]と呼ばるゝ處の背後にぞ、この古跡はあなる。「クラテエグス」、野薔薇などの枝生ひ茂りて、重圈をなせる榻列《たふれつ》の石級を覆へり。山のところどころには深き洞穴あり、石の穹窿あり。皆|草叢《くさむら》に掩《おほ》はれて、迫り視るにあらでは知れ難かるべし。谷のあなたに聳《そばだ》てるはアプルツチイ[#「アプルツチイ」に二重傍線]の山にて、沼澤《せうたく》を限り、この邊の景に、物凄き色を添ふ。あはれ此山の容《かたち》よ。この故址《こし》斷礎の間より望むばかり、人を動すことは、またあらぬなるべし。
 騎者等の我を拉《ひ》き往くは、とある洞窟の一つにて、その入口は石楠《エピゲエア》の枝といろ/\なる蔓艸《つるくさ》とに隱されたり。我等は足を駐《とゞ》めつ。徐《しづ》かに口笛吹く聲と共に、扉を開く響す。再び數級の石磴《せきとう》を下る。數人《すにん》の亂れ語る聲我耳に入りし時、頭に纏《まと》へる布は取り除けられぬ。わが身は大穹窿の裏《うち》に在り。中央なる大卓の上に眞鍮《しんちゆう》の燈二つ据ゑて、許多《あまた》の燈心に火を點じ、逞しげなる大漢《おほをとこ》數人の羊の裘《かはごろも》着たるが、圍み坐して骨牌《か
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