カたるときの用心には腰なる拳銃あり。丙。この小刀《こがたな》も馬鹿にはならぬ貨物《しろもの》なり。(かの身材小さき男は冰《こほり》の如き短劍を拔き出だして手に持ちたり。)乙。早く※[#「革+室」、67−下段−23]《さや》に納めよ。年若き客人は刃物は嫌ひなるべし。客人、われ等に逢ひ給ひしは爲合《しあは》せなり。若し惡棍《わるもの》などに逢ひ給はゞ、素裸にせられ給はん。金あらば我等にあづけ給へ。
 われは今三人の何者なるかを知りたり。我五官は鈍りて、我性命は價なきものとなりぬ。諸君よ、わが持てる限の物をば、悉く贈るべし、されどおん身等を※[#「厭/食」、第4水準2−92−73]《あ》かしむるに足らざるこそ氣の毒なれと答へて、われは進寄りつゝ、手を我|衣兜《かくし》にさし籠《こ》みたり。われは兜兒《かくし》の中に猶|盾銀《たてぎん》二つありしを記したり。而るに我手に觸れたるは、重みある財布なりき。抽《ひ》き出して見れば、手組《てあみ》の女ものなるが、その色は曾てアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]が媼の手にありしものに似たり。落人《おちうど》の盤纏《ろよう》にとて、危急の折に心づけたる、彼媼の心根こそやさしけれ。三人ひとしくさし伸ぶる手を待たで、われは財布の底を掴みて振ひしに、焚火に近き※[#「匚<扁」、第4水準2−3−48]石《ひらいし》の上に、こがねしろかね散り布けり。眞物《ほんもの》ぞと呼びつゝ、人々拾ひ取りて勿體なき事かな、盜人などに取られ給はゞいかにし給ふといふ。われ。貨物《しろもの》はそれ丈なり。疾《と》く我命を取り給へ。生甲斐なき身なれば毫《すこ》しも惜しとはおもはず。甲。思ひも寄らぬ事なり。我等はロツカ・デル・パアパ[#「ロツカ・デル・パアパ」に二重傍線]に住める正直なる百姓仲間なり。同じ教の人を敬ふ基督の徒なり。酒少し殘りたり。これを飮みて、かく怪しき旅し給ふ事のもとを明し給へ。われ。そはわが祕事《ひめごと》なり。かく答へて我は彼瓶を受け、燥《かわ》きたる咽を潤したり。
 三人は何事をかさゝやきあひしが、小男は嘲《あざ》み笑ふ如き面持して我に向ひ、煖《あたゝか》き夕のかはりに寒き夜をも忍び給へといひて立ちぬ。渠《かれ》は驅歩《かけあし》の蹄の音をカムパニア[#「カムパニア」に二重傍線]の廣野に響かせて去りぬ。甲。いざ客人、船を待ち給はんは望なき事な
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