tせる五指の間に牢《かた》く拳銃を攫《つか》みたり。
わが此不慮此不幸の全範圍を感ぜしは、酒店の人の罵り噪《さわ》ぎつゝ走り寄りアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]と媼との我前に來るを見し時なりき。わがベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]と叫びて、その躯《からだ》に抱き付かんとするに先だちて、姫は早くもその傍に跪き、鮮血湧き出づる創口を押へたり。姫はかく我友をいたはりつゝ、血の色全く失《う》せたる面を擧げて、我を凝視せり。媼は我臂を搖り動かして、疾《と》く此場をと呼べり。
われは胸裂くるが如き苦痛を覺えき。われは叫び出せり。思ひ掛けぬ怪我なり。殺さんと欲せしは他《かれ》なり。銃は他の我にわたしゝなり。われは身を脱せんとして撥條《はつでう》に觸れたり。アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]聞き給へ。我等二人は命に懸けて君を慕ひしなり。君がために血を流さんことは、われも厭はざるべきこと、我友と同じ。われはおん身が一言を聞きて去らん。おん身は我友を愛し給ひしか、我を愛し給ひしか。
友の介抱に餘念なき姫は、詞のあやもしどろに、疾く往き給へといひて、手を揮《ふ》りたり。姫は往き給へと繰反したり。われは心もそらに再び、友なりしか我なりしかと叫びたり。
その時われはアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]が友の上に俯して唇をその※[#「桑+頁」、第3水準1−94−2]《ひたひ》に觸るゝを見、その聲を呑みて微かに泣くを聞きたり。
次第に集りたる衆人の中より、忽ち邏卒々々《らそつ/\》と呼ぶ聲を聞けり。われは目に見えぬ幾條の腕もて拉《ひ》き去らるゝ心地して、此場を遁《のが》れたり。
基督の徒
愛せられしは友なり。この一條の毒箭《どくや》は我渾身の血を濁して、人を殺せり友を殺せりといふ悔悟の情の頭を擡《もた》ぐるをさへ妨げんとす。灌木雜草を踏みしだき、棘《いばら》に面を傷《きずつけ》られ、梢に袖を裂かれつゝも、幾畝の葡萄畠を限れる低き石垣を乘り越え乘り越え、指すかたをも分かでモンテ、マリヨ[#「モンテ、マリヨ」に二重傍線]の丘を走り下るに、聖ピエトロ[#「ピエトロ」に傍線]の御寺の火は、昔カイン[#「カイン」に傍線]の奔《はし》りしとき、同胞の躯《からだ》を供へたる贄卓《にへづくゑ》の火のゆくてを照しゝ如くなり。(譯者云。カイン[#「カイン」に傍線]は亞
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