すがりて、兩膝にて我身をしかと挾み、いやがりて振り向かむとする頭を、やう/\胸の方へ引き寄せたり。われは少女が※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]したる銀の矢を拔きたるに、豐なる髮は波打ちて、我身をも、露《あらは》れたる少女が肩をも掩《おほ》はむとす。母上は室の隅に立ちて、笑みつゝマリウチア[#「マリウチア」に傍線]がなすわざを勸め勵まし給へり。この時フエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]は戸の片蔭にかくれて、竊《ひそか》に此群をゑがきぬ。われは母上にいふやう。われは生涯妻といふものをば持たざるべし。われはフラア・マルチノ[#「フラア・マルチノ」に傍線]の君のやうなる僧とこそならめといひき。
 夕ごとにわが怪しく何の詞もなく坐したるを、母上は出家せしむるにたよりよき性《さが》なりとおもひ給ひき。われはかゝる時、いつも人となりたる後、金あまた得たらむには、いかなる寺、いかなる城をか建つべき、寺の主、城の主となりなん日には、「カルヂナアレ」の僧の如く、赤き衷甸《ばしや》に乘りて、金色に裝ひたる僕《しもべ》あまた隨へ、そこより出入せんとおもひき。或るときは又フラア・マルチノ[#「フラア・マルチノ」に傍線]に聞きたる、種々なる獻身者の話によそへて、おのれ獻身者とならむをりの事をおもひ、世の人いかにおのれを責むとも、おのれは聖母のめぐみにて、つゆばかりも苦痛を覺えざるべしとおもひき。殊に願はしく覺えしは、フエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]が故郷にたづねゆきて、かしこなる邪宗の人々をまことの道に歸依せしむる事なりき。
 母上のいかにフラア・マルチノ[#「フラア・マルチノ」に傍線]と謀《はか》り給ひて、その日とはなりけむ。そはわれ知らでありしに、或る朝母上は、我に小《ちひさ》き衣を着せ、其上に白衣を打掛け給ひぬ。此白衣は膝のあたりまで屆きて、寺に仕ふる兒《ちご》の着るものに同じかりき。母上はかく爲立てゝ、我を鏡に向はせ給ひき。我は此日より尖帽宗《カツプチヨオ》の寺にゆきてちごとなり、火伴《なかま》の童達と共に、おほいなる弔香爐《つりかうろ》を提げて儀にあづかり、また贄卓《にへづくゑ》の前に出でゝ讚美歌をうたひき。總ての指圖をばフラア・マルチノ[#「フラア・マルチノ」に傍線]なしつ。われは幾程もあらぬに、小き寺のうちに住み馴れて、贄卓に畫きたる神
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