チして、却りておのれが早く君を見きと覺ゆる由を語りぬ。姫、そは又いかにしてと問ひしが、その聲うち顫ふ如くなりき。われ。ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]が君を見きといふは、いたく變りたる境界なり。惡しくな聞き給ひそ。ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]も後に誤れることを覺りぬ。君が髮の色濃きなど、人にしか思はるゝ端となりしなるべし。君は、君はわが加特力教の民にあらず、されば「アラチエリ」の寺にて説教のまねし給ふ筈なしとの事なりき。姫は媼の方を指ざして、さては我友とおなじ教の民ぞといひしなるべしといふ。われは直にその手を取りて、わが詞のなめしきを咎め給ふなと謝したり。姫微笑みて、君が友の我を猶太少女とおもひきとて、われ爭《いかで》でか心に掛くべき、君は可笑しき人かなといひぬ。この話は我等の交を一と際深くしたるやうなりき。わが日頃の憂さは悉く散じたり。さてわが再び見じとの決心は、生憎《あやにく》にまた悉く消え失せたり。
姫はふと基督再生祭前のこの頃閉館中なる羅馬の畫廊の事を思ひ出でゝ、かゝる時好き傳《つて》を得て往き看《み》ば、いと面白かるべしといふに、姫の願としいへば何事をも協へんとおもふわれ、幸にボルゲエゼ[#「ボルゲエゼ」に傍線]の館の管守、門番など皆識りたれば、そは容易《たやす》き事なりとて、あくる朝姫と媼とを伴ひ往かんことを約しつ。かの館は羅馬の畫廊のうちにて最も備れる一つなり。フランチエスカ[#「フランチエスカ」に傍線]の君の穉《をさな》き我を伴ひ往き給ひしはかしこなれば、アルバニ[#「アルバニ」に傍線]が畫の羽ある童は皆わが年ごろの相識なり。
靜なる我室に歸りて、つら/\物を思ふに、ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]はまことに彼君を戀ふるに非ず。卑しき色慾を知りて、高き愛情を解せざる男の心と、深けれども能く澹泊《たんぱく》に、大いなれども能く抑遜《よくそん》せる我心とは、日を同じくして語るべからず。さきの日の物語の憎かりしことよ。彼はたゞ驕慢《けうまん》なり。彼はたゞ放縱なり。かくて飽くまで我を傷けたり。そはアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]の我に優しきを妬《ねた》みてなるべし。初め我を紹介せしは、いかにも彼男なりき。されど今その心を推《すゐ》すれば、好意とはおもはれず。おのが風采態度のすぐれたるを彼君に見するとき、その側に世馴れ
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