》の審判の圖となす。
判官たる基督は雲中に立てり。使徒と聖母とは不便《ふびん》なる人類のために憐を乞はんとて手をさし伸べたり。死人は墓碣《ぼけつ》を搖り上げて起《た》たんとす。惠に逢へる精靈は拜みつゝ高く翔《かけ》り、地獄はその※[#「月+咢」、第3水準1−90−51]《あぎと》を開いて犧牲を呑めり。宣告を受けたる同胞の早く毒蛇に卷かれたるを、雲に駕せる靈の援《たす》け出さんとするあり。悔い恨める罪人の拳もて我額を撃ちつゝ、地獄の底深く沈み行くあり。天堂と地獄との間には、或は登り或は降る神將力士あまたありて、例の大膽なる遠近法もて寫し出されたり。優しく人を恤《めぐ》みがほなる天使、再會して相悦べる靈ども、金笛《きんてき》の響に母の懷に俯したる穉子《をさなご》など、いづれ自然ならざるなく、看るものは覺えず身を圖中に※[#「宀かんむり/眞」、第3水準1−47−57]《お》きて、審判のことばに耳を傾く。ミケランジエロ[#「ミケランジエロ」に傍線]は蓋し能くダンテ[#「ダンテ」に傍線]の歌ひしところを畫けるなり。
恰も好し將《まさ》に沒せんとする夕日はそのなごりの光を最高列の窓より射込みたり。圖の下の端なる死人の起つあたり、艤《ふなよそひ》せる羅刹《らせつ》の罪あるものを拉《ひ》き去るあたりは、早や暗黒裡に沒せるに、基督とその周匝《めぐり》なる天翔《あまがけ》る靈とは猶金色に照されたり。日の入ると共に最後の燭は吹き滅《け》されて、讀誦は全く果てたり。暗黒は審判の圖の全面を覆へり。絲聲肉聲は又湧きて、世の季《すゑ》の審判の喜怒哀樂皆洋々たる音となりつゝ、われ等の頭上を漲り過ぐ。
法皇は式の衣を脱ぎて、贄卓《にへづくゑ》の前に立ち、十字架を拜せり。金笛の響凄じく、「ポプルス、メウス、クヰツト、フエチイ、チビイ」の歌は起りぬ。低階の調に雜《まじ》る軟《やはらか》なる天使の聲は、男の胸よりも出でず、女の胸よりも出でず、こは天上より來れるなり。こは天使の涙の解けて旋律に入りたるなり。
われはこれを聽きて、力づき甦《よみがへ》り、この頃になき歡喜は胸に滿ちたり。われはアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]を愛し、ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]を愛せり。この瞬時の愛はかの天上の靈の相愛するに殊《こと》ならざるべし。祈祷の我に與へざりし安慰は、今音樂にて我に授けられた
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