た。そのみごとな踊りぶりを、みんなやんやとさわいでほめました。姫にしてもこれほどみごとに踊ったのははじめてです。おどりながら、きゃしゃな足は、するどい刄もので切りさかれるようにかんじました。けれどそれを痛いともおもいません。それよりか、胸を切りさかれる痛みをせつなくおもいました。
 王子をみるのも、今夜がかぎりということを、ひいさまは知っていました。このひとのために、ひいさまは、親きょうだいをも、ふるさとの家をも、ふり捨てて来ました。せっかくのうつくしい声もやってしまったうえ、くる日もくる日も、はてしないくるしみにたえて来ました。そのくせ、王子のほうでは、そんなことがあったとは、ゆめおもってはいないのです。ほんとうに、そのひととおなじ空気を吸っていて、ふかい海と星月夜の空をながめるのも、これがさいごの夜になりました。この一夜すぎれば、ものをおもうことも、夢をみることもない、ながいながいやみ[#「やみ」に傍点]が、たましいをもたず、ついもつことのできなかった、このひいさまを待っていました。船の上では、でも、たれも陽気にたのしくうかれて、真夜中《まよなか》すぎまでもすごしました。そのなかで
前へ 次へ
全62ページ中55ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
アンデルセン ハンス・クリスチャン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング