に、船の白い帆や、空のあかい雲をみました。空のその声はそのままに歌のふしでしたが、でもそれはたましいの声で、人間の耳にはきこえません。そのすがたもやはり人間の目ではみえません。それは、つばさがなくても、しぜんとかるいからだで、ふうわり空をただよいながら上がって行くのです。人魚のひいさまも、やはりそれとおなじものになって目にはみえないながら、ただよう気息《いき》のようなものが、あわのなかから出て、だんだん空の上へあがって行くのがわかりました。
「どこへ、あたし、いくのでしょうね。」と、人魚のひいさまは、そのときたずねました。その声は、もうそこらにうきただよう気息《いき》のなかまらしく、人間の音楽にうつしようのない、たましいのひびきのようになっていました。すると、
「大空のむすめたちのところへね。」と、ほかのただよう気息《いき》のなかまがいいました、「人魚のむすめに死なないたましいはありません。人間の愛情をうけないかぎり、それをじぶんのものにすることはできません。かぎりないいのちをうけるには、ほかの力にたよるほかありません。大空のむすめたちもながく生きるたましいをもたないかわり、よい行いによって、じぶんでそれをもつこともできるのです。(あたしたちは、あつい国へいきますが、そこは人間なら、むんむとする熱病の毒気で死ぬような所です。そこへすずしい風をあたしたちはもっていきます。空のなかに花のにおいをふりまいて、ものをさわやかにまたすこやかにする力をはこびます。こうして、三百年のあいだつとめて、あたしたちの力のおよぶかぎりのいい行いをしつくしたあと、死なないたましいをさずかり、人間のながい幸福をわけてもらうことになるのです。お気のどくな人魚のひいさま、あなたもやはりあたしたち同様まごころこめて、おなじ道におつとめになったのね。よくも苦みをおこらえなさったのね。それで、いま、大空の気息《いき》の世界へ、ごじぶんを引き上げるまでになったのですよ。あと三百年、よい行いのちからで、やがて死ぬことのないたましいがさずかることになるでしょう。」
[#挿絵(fig42383_04.png)入る]
 そのとき、人魚のひいさまは、神さまのお日さまにむかって、光る手をさしのべて、生まれてはじめての涙を目にかんじました。――そのとき、船の上は、またもがやがやしはじめました。王子と花よめがじぶんをさ
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