て、王子がほかのお妃をむかえた次の朝、海のあわになってきえなければなりませんでした。
「わたくしを、だれよりもいちばんかわいいとはおおもいにならなくて。」と、王子が人魚のひいさまを腕にかかえて、そのうつくしいひたえにほおをよせるとき、ひいさまの目は、そうたずねているようにみえました。
「そうとも、いちばんかわいいとも。」と、王子はいいました。「だって、おまえはだれよりもいちばんやさしい心をもっているし、いちばん、ぼくをだいじにしてつかえてくれる。それに、ぼくがいつかあったことがあって、それなりもう二どとはあえまいとおもうむすめによく似ているのだよ。ぼくはあるとき、船にのって、難破《なんぱ》したことがあった、波がぼくを、あるとうといお寺のちかくの浜にうち上げてくれた。そのお寺にはおおぜい、わかいむすめたちが、おつとめしていた。そのなかでいちばんわかい子が、ぼくを浜でみつけて、いのちをたすけてくれた。ぼくは、その子を二どみただけだった。その子だけが、ぼくのこの世の中で好きだとおもったただひとりのむすめだった。ところで、おまえがそのむすめに生きうつしなのだ。あまり似ているので、ぼくの心にのこっていたせんのむすめのすがたが、いまではどうやらとおくにおしのけられそうだ。そのむすめは、とうといお寺につかえているむすめだから、ぼくの幸運の神さまが、その子のかわりに、おまえをぼくのところへよこしてくれたのだ。いつまでもいっしょにいようね。」――
「ああ、あの方は、あの方のおいのちをたすけてあげたのは、このあたしだということをお知りにならないのね。」と、人魚のひいさまはおもいました。「あたし、あの方をかかえて海の上を、お寺のある森の所まではこんであげたのだわ。あたし、そのとき、あわのかげにかくれて、たれかひとは来ないかみていたのだわ。あの方が、あたしよりもっと好きだとおっしゃるそのうつくしいむすめも、みて知っている。」と、ここまでかんがえて、人魚のひいさまは、ふかいため息をしました。人魚は泣きたくも泣けないのです。「でも、そのむすめさんは、とうといお寺につかえている身だから、世の中へでてくることはないと、あの方はおっしゃった。おふたりのあうことはきっともうないのね。あたしはこうしてあの方のおそばにいる。まいにち、あの方のお顔をみている。あたし、あの方をよくいたわってあげよう。あの方に
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