て、お城のなかへつれていきました。なるほど、魔女があらかじめいいきかせていたように、ひいさまは、ひと足ごとに、とがった針か、するどい刄ものの上をふんであるくようでしたが、いさんで、それをこらえました。王子の手にすがって、ひいさまは、それこそシャボン玉のようにかるく上がっていきました。すると、王子もおつきの人たちもみんな、ひいさまのしなやかな、かるい足どりをふしぎそうに見ました。
 さて、ひいさまは、絹とモスリンの高価な着物をいただいて着ました。お城のなかでは、たれひとりおよぶもののないうつくしさでした。けれど、おしで、歌をうたうことも、ものをいうこともできません。絹に金のぬいとりした着物を着かざったうつくしい女のどれいたちがでて来て、王子と、王子のご両親の王さま、お妃《きさき》さまのご前で歌をうたいました。そのなかでひとり、たれよりもひときわじょうずによくうたう女があったので、王子は手をたたいてやって、そのほうへにっこりわらいかけました。でも、人魚のひいさまは、じぶんなら、はるかずっといい声でうたえるのにとおもって、かなしくなりました。そこで、
「ああ、王子さまのおそばに来たいばかりに、あたしは、みらいえいごう、声をひとにやってしまったのです。せめて、それがおわかりになったらね。」と、ひいさまはおもっていました。
 こんどは、女のどれいたちが、それはけっこうな音楽にあわせて、しとやかに、かるい足どりで、おどりました。すると、人魚のひいさまも、うつくしい白い腕をあげて、つま先立ちして、たれにもまねのならないかるい身のこなしで、ゆかの上をすべるようにおどりあるきました。ひとつひとつ、しぐさをかさねるにしたがって、この人魚のひいさまの世にないうつくしさが、いよいよ目に立ちました。その目のはたらきは、どれいたちの女の歌とくらべものにならない、ふかいいみを、見る人びとのこころに語っていました。
 そこにいた人たちは、たれも、酔ったようになっていました。とりわけ、王子は、ひいさまの名を「かわいいひろいむすめさん」とつけてよろこんでいました。ひいさまは、いくらでもおどりつづけました。そのくせ地に足がふれるたんびに、するどい刄ものの上をふむようでした。王子は、いつまでもじぶんの所にいるようにといって、すぐじぶんのへやのまえの、びろうどのしとねにねることをゆるしました。
 王子は、ひ
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